令和3年度の制度改定により、障がい福祉施設でも事業継続計画(BCP)の策定が義務化されました。従来は自然災害への備えが主でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、「まん延防止等重点措置」など感染症対策もBCPの重要な構成要素となっています。利用者の命と生活を支える福祉サービスだからこそ、感染症拡大時にも事業を継続できる体制の整備が求められます。本記事では、障がい福祉施設における感染症を想定したBCP策定のポイントについて詳しく解説します。
BCPの基本的な目的と考え方
BCP(事業継続計画)とは、自然災害や感染症の流行といった緊急事態においても、福祉サービスの提供を可能な限り継続し、早期の事業再開を図るための計画です。障がい福祉施設では、以下の3つを基本的な柱としてBCPを構築します。
- 職員と利用者の安全確保
- 必要最低限のサービス提供の維持
- 外部機関との連携体制の確保
これらの柱は、自然災害だけでなく感染症の流行時にも有効です。
まん延防止等重点措置と福祉施設への影響
「まん延防止等重点措置」は、感染症の拡大を抑えるために都道府県が特定区域へ外出や営業の制限を要請できる制度です。障がい福祉施設においては、以下のような影響が予測されます。
- 利用者や職員の感染リスクの上昇
- 通所支援サービスの停止や利用控え
- 職員不足や縮小運営の必要性
- 衛生資材の不足(マスク、消毒液など)
- 保護者や医療機関との連絡困難
このような状況でも、必要最低限の支援体制を維持することが施設の責任となります。
感染症対応を含めたBCP整備の実践ポイント
① 感染拡大防止策の事前準備
感染症流行時に備え、以下の予防策をあらかじめ整備しておきます。
- 発熱や咳などの症状がある職員・利用者の出勤・通所制限
- 手洗い、うがい、換気の励行
- 毎日の検温と健康観察の記録徹底
- 職員のワクチン接種状況の管理
- マスクや消毒液、手袋などの備蓄と在庫管理体制
これらの項目は平常時からの運用が鍵になります。
② サービス継続の優先順位設定
感染拡大時には、全ての業務を通常どおり行うのが困難になるケースも想定されます。そのため、業務ごとの優先度を事前に整理しておくことが重要です。
- 命を守るケア(服薬、食事、排泄支援など)は最優先
- 集団活動や外出支援は中止・縮小
- 家族との連絡は電話やビデオ通話を活用
限られた人員と資源でも支援の質を保つ工夫が求められます。
③ 柔軟なスタッフ体制の確保
職員が感染したり、濃厚接触者として出勤できなくなる事態に備えた対応策を整えます。
- 少人数での交代勤務やシフト調整
- 在宅でも可能な業務の洗い出しとテレワーク対応の検討
- 多能工化の推進(職員が複数の業務に対応できるよう訓練)
職員の急な欠勤にも対応できる体制を確立することが大切です。
④ 外部関係機関との連携強化
BCPには、自治体や保健所、医療機関などとの連携体制も含まれます。
- 緊急時の連絡ルートや担当者を明確にする
- 医療機関との協力関係を事前に確認
- 他施設との応援協定や情報共有体制の構築
外部との連携は、感染拡大時の対応速度に直結します。
利用者と家族への情報発信
感染症のまん延時には、情報の混乱や不安が広がることが多くあります。施設としては、BCPの概要や感染症対応の方針を日頃からわかりやすく発信し、利用者や家族の不安を和らげる努力が必要です。
- 感染拡大時の対応内容(閉所やサービス変更など)
- 食事や送迎体制の変更について
- 家族への連絡手段(電話、LINE、掲示物など)
信頼関係を築くためにも、継続的な情報共有が不可欠です。
まとめ:感染症に備えたBCP整備が今後の鍵
障がい福祉施設は、社会的に極めて重要なインフラの一つです。BCPの策定と定期的な見直しを通じて、災害や感染症などさまざまな緊急事態にも動じない体制づくりが求められています。感染症は今後も断続的に発生する可能性があるため、「最悪の事態を想定した備え」が、利用者の命と暮らしを守るカギとなります。平常時からの備えと訓練により、いざという時にも冷静で確実な対応を実現しましょう。