「うちは仲が良いから大丈夫」と思っていても、遺産分割協議書を作らなかったことで、後々大きなトラブルに発展することは珍しくありません。不動産の名義変更ができない、相続人間で揉める、手続きが進まないといった問題を防ぐためには、正式な協議書の作成が不可欠です。本記事では、実際に起きたトラブルの事例と、それを未然に防ぐための対処法について詳しく解説します。
遺産分割協議書を作成しないと起こり得るリスク
「書かなくても問題ない」は危険な思い込み
相続が発生した際、「口頭で話し合いができたから大丈夫」「書類なんて面倒だからいらない」と思ってしまう方もいます。しかし、財産を分けるという行為には、後々の証明と明確な合意が必要です。文書化されていない合意は、時間の経過や状況の変化によりトラブルへとつながる可能性があります。
実際に起きたトラブル事例
ケース1:不動産の名義変更で争いに発展
被相続人の土地に兄弟の一人が住み続けていたものの、正式な協議書がなかったため、数年後に名義を変更しようとした際、他の兄弟が「そんな話は聞いていない」と主張。過去の話し合いの記録もなく、結局、家庭裁判所での調停に発展。相続人同士の関係も悪化し、時間も費用も大きく消費しました。
ケース2:認知症の相続人がいて手続きが停止
相続人の一人が認知症で判断能力が不十分だったため、協議書を作成することができず、家庭裁判所で成年後見人を選任する手続きが必要に。結果として手続き完了までに数か月以上を要し、相続人全体の負担が大きくなってしまいました。
ケース3:協議書の不備で登記ができなかった
話し合いの内容を協議書にまとめたものの、不動産の表示が不完全で、相続人の署名や実印が一部不足していたため、法務局で登記申請が受理されずやり直しに。結果として、手続きが長引くだけでなく、相続人間の不信感も高まりました。
トラブルを防ぐための対処法
正式な協議書を必ず作成する
協議の内容は、必ず遺産分割協議書として文書化し、相続人全員が署名・実印を押し、印鑑証明書を添付する必要があります。形式に不備があると、法務局や金融機関での手続きが進められません。
専門家によるチェックを受ける
行政書士や司法書士などの専門家に相談することで、記載漏れや法的な不備を防ぐことができます。初めての相続手続きでも、専門家のサポートがあれば安心して進められます。
判断能力に不安がある相続人がいる場合の備え
認知症や精神疾患などで判断能力が不十分な相続人がいる場合は、早めに成年後見制度の利用を検討しましょう。後見人が選任されることで、適切な手続きを進めることが可能になります。
遺産分割協議書は「将来の安心」を支える書類
今は問題がなくても、数年後に相続人の状況や関係性が変わることはよくあります。遺産分割協議書を作成しておけば、そうした将来的なリスクを大きく減らすことができます。
家族間の信頼があるからこそ、曖昧な合意ではなく、正式な書面に残すことが大切です。「あとで困らない」ための備えとして、必ず協議書を整えておきましょう。