不安障害のある方に対しては、「どうしてそんなことで不安になるの?」といった見方をするのではなく、本人の感じている恐怖や不安を受け止め、安心できる環境を整えることが何より大切です。症状は見えにくく、他者には理解されづらいため、孤立しやすい傾向があります。今回は、不安障害のある方への支援として、日常生活の中でできる配慮や声かけ、再発防止のための工夫について解説します。
1. 「不安を否定しない」ことが支援の第一歩
不安障害のある方は、「大丈夫」と自分に言い聞かせようとしても、身体が先に反応してしまうことがあります。支援者が最初にできることは、不安そのものを否定しない姿勢です。
寄り添いの言葉例:
- 「不安な気持ちになるのは自然なことだよ」
- 「今はちょっと怖く感じるだけかもしれないね」
- 「一緒にいるから安心してね」
不安を口に出せるだけでも、本人の気持ちは少し落ち着きます。
2. パニック発作時の対応は「冷静さ」と「安全確保」
パニック障害などで発作が起きたときは、過呼吸や動悸、めまいなど激しい症状が出ることがあります。命に関わるように見えることもありますが、身体の緊張反応による一時的な症状です。
落ち着かせる対応:
- 「大丈夫だよ」「ここにいるよ」と静かに伝える
- 過呼吸の場合は、ゆっくりとした深呼吸を促す
- 静かな場所に移動して、刺激を減らす
- 症状が落ち着くまでそっと見守る(救急搬送は本人の希望を優先)
本人の不安がさらに高まらないよう、慌てず、過剰に心配しすぎないことが大切です。
3. 生活の「見通し」を伝えて不安を軽減
不安障害のある方は、先が読めない状況に強い不安を感じやすい傾向があります。予定の変更や突然の出来事は、混乱の原因になりやすいため、スケジュールや環境の変化を事前に伝えることが効果的です。
支援の工夫:
- 活動の流れをあらかじめ説明しておく(例:「今日は10時に散歩、その後は作業だよ」)
- 変更がある場合は早めに伝える
- 曜日ごとに予定表を作り、視覚的に提示する
- 1日の中で「安心できる時間帯」を設定する(例:休憩タイム)
「次に何が起きるのかわかる」ことが、安心感につながります。
4. 徐々に「できたこと」を積み重ねる支援
不安が強い時期は、できることが制限されてしまいがちです。そこで重要なのは、「できることから少しずつ始める」ことと、「できたことを評価する」支援です。
実践例:
- 人が少ない時間に外出する、近くのスーパーから始める
- 作業や学習を短時間から取り入れる(例:15分間だけ集中する)
- 本人の希望を尊重しながら、選択肢を増やしていく
- 「今日はここまでできたね」と前向きに声をかける
自信を取り戻すことで、不安への耐性も少しずつ強くなっていきます。
5. 薬物療法やカウンセリングへの理解と協力
不安障害は、医療の力を借りることで安定しやすくなります。薬の服用や心理療法への理解を促すことも、支援者の大切な役割です。
協力の仕方:
- 服薬を促すときは強制せず、「調子を安定させるためのお守りのようなものだよ」と伝える
- 通院に付き添う・スケジュールを一緒に管理する
- 認知行動療法(CBT)などのカウンセリングの活用を提案する
- 医師との情報共有(本人の同意があれば)で支援方針を一致させる
医療と福祉、本人の思いがバラバラにならないよう、連携体制を築くことが重要です。
6. 周囲の無理解から守る「橋渡し役」になる
「不安障害なんて気のせい」「そんなに心配しなくていいでしょ」など、心ない言葉が本人を傷つけることもあります。支援者や家族は、本人の気持ちや状態を周囲に丁寧に伝える役割も担います。
伝え方の例:
- 「〇〇さんは、人前に出るのがつらくなることがあるんです」
- 「決してわがままではなく、身体が強く反応してしまう病気です」
- 「できることは増えてきているので、焦らず見守ってあげてください」
本人が安心して過ごせる環境をつくるには、まわりの理解が欠かせません。
まとめ:不安は「コントロールできる感覚」を取り戻すことから
不安障害の支援は、「何が不安なのか」を理解し、「その不安をどう乗り越えるか」を一緒に考えていく関わりです。焦らせることなく、安心できる環境・見通し・選択肢を整えることで、本人の自信と安心を少しずつ育てていきましょう。
そして、支援する側も「一緒にゆっくり前に進んでいく」気持ちで関わることが、長く安定した支援につながります。